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東京地方裁判所 平成4年(ワ)2601号 判決

原告

大木國夫(静岡県富士市伝法)

被告

守弘移植重機(株)(市川市鬼高2)

主文

原告の請求を棄却する。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告は、原告に対し、別紙目録(一)記載の特許権につき、特許庁において、昭和62年3月4日受付第516号でなされた昭和62年4月27日登録の別紙目録(二)記載の専用実施権設定登録の抹消登録手続をせよ。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、昭和61年8月15日、別紙目録(一)記載の特許権を訴外古川芳美から譲渡によって取得し、同年10月27日特許登録原簿にその旨登録された。

2. 原告は、昭和61年11月18日、本件特許権について、被告との間に、範囲を全部とし、設定期間を3年とする専用実施権設定契約を締結し、同月22日、右契約を内容とする公正証書が作成された。そして、昭和62年3月4日、本件特許権について、右契約に基づき専用実施権の設定登録の申請がなされ、同年4月27日、その旨登録された。

3. なお、本件設定登録は、単に「範囲全部」とされ、設定期間が3年であることが登録されていないが、これは、次のような事情による。

原告は、前項記載の専用実施権の登録申請に当たり、被告の選任した弁護士に委任する形で行った。そのため、本件設定登録手続は、被告によって偽造された「専用実施権設定契約証書」により行われることになり、前記公正証書に基づく専用実施権設定契約の内容のとおりにはなされなかったものである。

4. 第2項記載の専用実施権は、平成元年11月18日の経過により設定期間が満了した。

5. よって、原告は、被告に対し、原被告間で契約された設定期間が満了したため、前記2記載の契約に基づき、請求の趣旨記載のとおり、本件設定登録の抹消登録手続を求める。

二、請求原因に対する認否(省略)

三、被告の主張

原告と被告が昭和61年11月18日締結した契約は、本件特許権について、独占的通常実施権を設定するものであり、同月22日右のような契約について公正証書を作成したのである。この契約が独占的通常実施権を設定するものであることは、契約書に明確に「独占的通常実施権」との文書が使用されていること及び同号証の契約が弁護士によって作成されていることから明らかである。そして、同契約において独占的通常実施権の設定期間は、昭和61年11月18日から3年間とされている。ところが、右契約締結後、原告と被告との間で、本件特許権を侵害している第三者に対して、被告が原告に代わって特許権侵害に基づく損害賠償請求ができるように、原告が、被告に対して本件特許権につき専用実施権を設定することを約した。

その際、右専用実施権の設定期間については、本件特許権の存続期間とし、また、専用実施権設定の日も右独占的通常実施権設定契約の日と同日である昭和61年11月18日とすることで合意したものである。

乙第3号証は、このような事情の下で作成されたものであり、原告の意思に基づき真正に作成されたものである。

理由

一、請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二1. 請求原因2のうち、本件特許権について本件設定登録が成されたことは当事者間に争いがない。

2. 成立に争いのない甲第2、(省略)乙第8ないし第11号証、後記のとおり真正に成立したものと認められる乙第3号証、被告代表者尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、以下の諸事情が認められる。

(一)  原告と被告とは、昭和61年11月18日、弁護士井上勝弘の事務所にて、同弁護士が立会人となり、同弁護士が作成した「特許の実施許諾契約書」と題する契約書に署名又は記名捺印して、本件特許権について独占的通常実施権を設定することを内容とする契約を締結した。そして、同月22日に、その旨を記載した公正証書が作成された。

(二)  その後、原告と被告は、当時双葉興業有限会社が本件特許権を侵害しているとして、双葉興業に対して、被告が損害賠償請求等を行うことができるように、本件特許権について右独占的通常実施権に代えて、専用実施権を設定することを合意した。その際、独占的通常実施権においては、その設定期間は3年とされたが、被告代表者は、双葉興業との交渉を行い、訴訟等の法的手段を取るためには費用がかかるとして、右専用実施権の設定期間を本件特許権の存続期間とすることを請求し、原告はその旨了解した。

(三)  そこで、原告と被告は、昭和62年3月4日、弁護士及川昭二の事務所に各自の実印及び印鑑証明書を持参して出向き、「専用実施権設定契約証書」と題する契約書及び専用実施権の登録手続に必要な委任状に実印を押印し、同契約書等を作成したうえ、同弁護士が、同日付で特許庁に専用実施権設定登録申請をなし、同年4月27日、本件設定登録がなされた。

なお、右専用実施権設定契約の締結日については、。双葉興業に対して、昭和61年11月18日から損害金の請求ができるように、前記独占的通常実施権設定契約日である右同日とした。

(四)  その後、被告は、双葉興業に対して、内容証明郵便を送付し、本件特許権の侵害を同社に警告するとともに、同侵害に基づく損害賠償金の支払い等の催告を行った。

3. 右認定の事実によれば、原告主張の昭和61年11月18日に締結された契約は、独占的通常実施権設定契約であって専用実施権設定契約でないばかりか、その後の翌昭和62年3月4日に設定期間を本件特許権の存続期間とする専用実施権設定契約が締結され、これに基づいて本件設定登録がなされたことが明らかであるから、請求原因2の事実を認めることはできない。

なお、原告は、乙第3号証の「専用実施権設定契約証書」は被告によって偽造された文書である旨主張するが、被告代表者は、代表者尋問において、乙第3号証の「専用実施権設定契約証書」を作成する際、原告自身が立会い、その実印を押印したものである旨明確に述べ、また、原告自身も尋問において乙第3号証が作成された日である昭和62年3月4日に及川弁護士の事務所に印鑑証明書と実印を持って出向き、委任状に署名捺印したことを認めており、この事実に鑑定人大西芳雄の鑑定結果を合わせ考えると、乙第3号証の「専用実施権設定契約証書」は、真正に作成されたものであることは明らかであり、これが偽造されたものであるとの原告の主張は到底採用することはできない。

三、結論

以上のとおり、昭和61年11月18日に設定期間を3年とする専用実施権設定契約が締結されたとする原告の請求原因は、これを認めることができないから、本件設定登録の抹消を求める原告の本訴請求は理由がない。そこで、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法89条を適用して主文のとおり判決する。

(一宮和夫 足立謙三 前川高範)

〈以下省略〉

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